【 razbliuto 】

孤独を愛せ、愛を貫け

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ずっとヒーローになりたかった。

破滅に向かう世界を救うようなヒーローでも、国家一つの命運が決まるような状況で見事英断を下すようなヒーローでも、どれだけ状況が悪い試合でもそいつがコートに立てば状況が一変してしまうようなヒーローでも、目の前のたったひとりの大切な女の子を絶望から救うようなヒーローでも、なんでも良かった。規模なんてものはこの際どうでもよくて、僕はとにかく誰かのヒーローになりたかった。主人公になってみたかった。

そんなことを夢想して、もう何年経つんだろう。未だに消えない想いではあるものの、いい加減笑える冗談ですらなくなってきた。僕は、歳を重ねすぎた。

平凡な日々だ。朝起きて、適当に服を着て、会社に行って、上司や客に叱責されたり感謝されたりを適当に繰り返して、スーパーの総菜を片手に帰って、食べて寝支度をして寝る。タバコは大体2日で1箱。電子タバコは吸った気分にならない。もちろん身体にいいのは電子タバコだが、特に健康でいて長生きする必要も今のところ見当たらない。風呂上がりに夜風にあたりながら嗜む煙草とビールは旨い。そんなことはどうだっていい。さほど不幸な状況ではないものの、かといって幸福な状況でもない。至って、普通。時々、感傷に耽って過去を振り返りながら、「こんな今でごめんな」と過去の自分に謝る。もううんざりだ。

僕はヒーローになれなかった。主人公にはなれなかった。それもそのはずだ。僕は自分一人すら救えていないし、自分の人生の主人公にすらなれていない。そのことに気付いた時のやるせなさといったら筆舌に難い。いっそふらっと死んでしまおうかと思ったけれど、死んだところでただの自殺だ。何も残らない。

結局僕は生きてヒーローになることも、死んでちょっとした伝説を残すにも、歳を重ねすぎた。もう何にも慣れないことが分かった僕は、これから何になるんだろうか。日々は、相変わらず灰色のままで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【補足】

高校野球を観ていた。「ここぞ」という場面できっちり決める選手はやっぱり格好いい。物事を男女で分けて考えるのは好きじゃないけど、言葉を拝借するならば「漢気」がある人はやっぱり素敵だと思う。それだけです。