【 razbliuto 】

孤独を愛せ、愛を貫け

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「いつか売れた時に、”私がファン1号だから”ってドヤ顔したいの。だからそれまでは辞めないで。」と言ったときに露骨に嫌な顔をされて、その顔を見ながらケラケラ笑ったのはもう何年前の話だろう。

そういえばしばらく連絡来ていないなーと思ってトーク履歴を辿ると、最後に止めていたのは私らしかった。「見ろ」という無言の圧力と共に毎度送られてくるMVを後で観ようと思って閉じてそのままだったらしい。今更観たら、思ったより好みだったのでいつも通りそのまま感想を伝えると「タイムラグ大正かよ」と返ってきた。そこで大正を選ぶのはどういうセンスなの?音楽の活動の仕方を変えたらしい。今のところネットのみの活動になっていて、そちらにお金を回せるようになったからか再生回数もコメント数も見たことのない数になっていた。そんなコメントたちを1つ1つ見ながらにこにこしていたら1日が終わった。あの子が世間に認められていくことは、私も素直に嬉しい。

ちょうど1年前、「ねえ、久しぶりに好きなギター弾く人見つけた!」とやや興奮気味に報告した時に「じゃあ俺はやっと辞められるな」と言われてドキッとしたことがあった。私はあの子のギターが好きだとずっと伝えてきたけど、それが彼にとって錘になっていた可能性が初めて過って罪悪感でいっぱいになった。音楽をする中で苦しんでいるのも見てきたから、猶更だ。絶対に私のために何かをしない人だと思っていたからずっと安心していたことすら、ただの勝手な自己解釈に過ぎなかった。けれどその時ですら「だめ、まだ私はドヤ顔してない」と答えた。我ながら傲慢極まりないなと思うけれど、あの時押し切って正解だったと思いたい。君には、ずっと音楽をやっていてほしいのよ。

たった1年の中でも私たちの環境は目まぐるしく変わるけれど、私たちの距離感と温度感は授業中ぼんやり外を眺めたり教師たちから目をつけられて度々一緒に溜息を吐いたりしていたあの頃から変わらないでいてほしいと願う。ちなみにこの時見つけた久々に好きになったギタリストが、今の恋人だ。2人とも私の大切な恩人。いつか3人でお酒が飲めたらいいと、ぼんやり思う。